『ロングセラーブランド クリニカの再生における ストーリー設計』
第10回FIXプロモ研究会セミナーレポート

講演内容

マーケティングを学ぶ「ロングセラーブランド クリニカの再生における ストーリー設計」

日時:2019年3月22日(金)場所:IT ビジネスプラザ武蔵

講師:横手 弘宣(よこて ひろのぶ)様
ライオン株式会社
ヘルス&ホームケア事業本部
オーラルケア事業部 ブランドマネージャー

クリニカが抱えていた問題

「クリニカ」はライオンが1981年から発売しているオーラルケア製品。商品としてのアイデンティティは「酵素」による歯垢の除去。ブランド名は「クリニック(診療所)」に由来します。

<ブランドが苦戦していた背景>
オーラルケア市場は5年間で200億円以上拡大していたが、高価格帯商品の売り上げ構成比が伸びていました。
このことにより、比較的低価格帯で売り上げを構成していたクリニカは苦戦を強いられていました。

5年の間という短い間に主戦場が低価格帯の商品から高価格帯の商品に変化したことで、求めるお客様をうまくイメージができないでいました。そこでチームが考えたのは外部の意見に耳を傾ける」という事でした。

モノ・サービスがあふれる時代、ストーリーで解決する

「予防歯科」を掲げてブランドをリステージ

2011年 歯科口腔保健法施行
2012年 健康日本21 第2次公表
当時の外部環境としてオーラルケアを社会全体で後押しする機運が高まっていました。

そこで、クリニカでは「予防歯科」を戦略の中心に据えてブランドをリステージしていく決断をします。
「予防歯科」とは歯磨きなど、個人が日常的に行う「セルフケア」と、年に数回、歯科医院による「プロケア」を行う事で虫歯のない社会を目指すというもの。

「予防歯科」実践者のホンネをもとに目指すべき価値構造を考える

予防歯科実践者のホンネをリサーチすると

  1. 歯医者はこわい、、、でもほめられるとうれしい
  2. 自分ではやりきれない、、、でも自分ケアを見直したい
  3. 歯医者は専門家だから指導には共感できる

というものでした。

商品の機能訴求だけでは消費者に届かない時代。大切なのは体験した先にある「情緒的価値」を訴える事
チームはクリニカにおける情緒的価値を「歯医者さんに褒められる歯を目指せる」に設定しました。

「デザイン」と「CM」に対する大きな意思決定

様々なデザインを、人々に見せて反応を見た結果、高尚なデザインではなく「このマークがかわいい!」というシンプルな感情に訴えるマークを採用することに。
マークはCMやポスター、店頭POPやパッケージなど、あらゆるタッチポイントで登場し、クリニカの想いと顧客を繋げる重要な役割を担うことになります。
そして、「TVCMでは価値観を伝えていく」という決定をしました。
以下の動画をでもわかる通り、商品の説明は極力省き、「価値観」を訴えかけることに重点を置いています。これは我々にとっても「けっこう怖い意思決定」でしたが、全国7万件の歯医者さんでポスターが貼られるなど、共感を得ながら「予防歯科」は浸透していきました。(映像は現行のTVCMですが、この意思決定をした2014年から価値観を伝え、商品説明は極力しないという理念は貫かれています。)

0歳からの予防歯科/体験価値によるマーケティング

ものがあふれる時代、ものより大事な価値

例えば「ドリルを買う目的」をたずねると、その答えは様々に分かれます。
1)穴をあけるため
2)棚をつくるため
3)幸せな家族の生活
ものがあふれる時代、「穴をあける」といった商品自体の価値がその力を失いつつあり、そのむこうにある「幸せな家族の生活」のような体験に基づく価値が重要になってきます。

0歳からの予防歯科

次に「予防歯科」を広げる取り組みとして「子供と一緒に始める予防歯科」を打ち出しました。
その背景には「日定着率39%」5歳以下の子供の約4割で”自分みがき”が定着しないという事実がありました。
自分のためではやらないけど、誰かのためにならできる。ましてや子供のためなら、、
ということで、「クリニカKIDS歯ブラシ」を発売します。クリニカKIDS歯ブラシは曲がる歯ブラシで、子供が歯ブラシを口に入れ走り回ったり、転んだりしても安全な歯ブラシですが、この商品をお客様に伝えるための考え方が、体験価値を主体としたものでした。

「クリニカKIDS歯ブラシ」が持つべき体験価値は、「子供が笑顔で歯磨きをするようになった」といった幸せにある。そのことを表現するために用いた動画マーケティングがこちらの動画です。

お子さんをお持ちの方なら、一度は経験した事のある「歯磨きの際の格闘」を「笑顔」に変える共感と発見のある動画コンテンツです。ここにも極力商品の訴求を抑えたメッセージづくりが見て取れます。
多くのお母さん方の共感を呼び、シェアされる動画となったようです。

クリニカネクストステージ

マーケティングの新たな概念「ブランドパーパス」。欧米では一般化し始めていますが、まだまだ新しい概念です。
ブランドパーパスとは、企業を起点とした考え方ではなく、「顧客・社会」を起点とした考え方で取り組むマーケティングと言えます。
これは、主語を「企業」ではなく、「社会」に置き換えて考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。
つまり「社会の価値観」に投資をするという考え方です。

新しい価値観を問うチャレンジ「大人だって褒められたい」

「これはまだ投資している段階」と前置きしながらも横手氏は新しい取り組みを紹介してくれた。
この動画は、洗面台の向こうから「日常生活を懸命に生きる大人達に寄り添い、応援したいと願っている」というクリニカの想いを表現しています。この心地よい「ブランドパーパス」がクリニカが今後進んでいく方向を示しているという。

「存在意義は何か、何のためにやっているか、この対象が大きければ大きいほど面白い」と横手氏。
しかし同時に「対象が大きすぎると、ついて来れなくなる恐れもある」と、この概念の難しさも語ってくれた。

まとめ

横手さんは、講演の最後に「マーケティングの仕事とは」という問いに対して「価値を翻訳・編集できること」とまとめてくれました。
今回のポイントは、クリニカのブランドリステージにおいてまず「外部の意見に耳を傾ける」という所から始めたことではないかと思いました。クリニカのアイデンティティである「クリニック(歯科医)」にその価値の一端をゆだね、社会の問題に取り組んでいくのもとても納得できますし、その延長上に「ブランド―パーパス」(社会を起点としたマーケティング)を取り入れてゆく事もとても自然なことのように感じられました。そして今回講演いただいた考え方の根底には一貫して、あらゆる工夫を用いながら「価値」を伝える事に向き合うマーケターの執念とバイタリティを感じられました。横手さんありがとうございました。

■レポート:株式会社フィックス黒田 朋宏
最後までお読みいただきありがとうございました。株式会社フィックスの映像事例集も随時更新中ですので是非ご覧ください!

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