『クリエイターのためのデザイン心理学Up to Date』
第8回FIXプロモ研究会セミナーレポート

講演内容

クリエイターのためのデザイン心理学Up to Date

日時:2019年1月21日(月)場所:石川四高記念文化交流館

講師荷方 邦夫(にかた くにお)様
金沢美術工芸大学 美術工芸学部 准教授

1972年熊本県生まれ
筑波大学大学院心理学研究科中退。博士(心理学)。認知心理学・教育心理学を専門とし、「わかりやすさ」をキーワードとして、その理解と支援の解明をテーマとして研究を行う。現在は文部科学省・科学技術振興機構の「革新的イノベーション創出プログラムCOI)」プロジェクトを始めとした、デザインや感性認知に関する研究を中心に行う。

※今回の講義の模様は本ページ下部にて動画でもご覧いただけます。

1.デザインおさらい

デザインとは何か?

人間が何らかの目的を持って有形無形の人工物に手を加え、変化させる事。
デザインの基本は「工夫」という事が出来ます。
「工夫」ができるデザイナーが立派なデザイナーであるとも言えるのでしょう。
アートとは美を基本とした作家の自己表現。
一方のデザインには「自己」はそれほど必要とされない。良くするための「工夫」があればいい。
デザインとアートは違います。イギリスとキリギリスくらい違います。

金沢の水。これは皆さんもご存知かもしれませんが、金沢市末浄水場のお水でいわば「ただの水道水」なのですが、280mlで200円で販売されていました。
金沢らしさをデザインに込めた独特なデザインによりよく売れたそうです。
おそらく「立法メートルいくら」で価格がついているような水道水がこのような高値で売れたのはデザインによる工夫の力が働いたといえるでしょう。

デザインとデザイン研究が重要な理由

例えば車、発明されて間もないころは、毎年スピードや機能などが大きく進化していたため、進化した技術に大きな価値がありました。しかし今や大きな技術革新はありません。進化のない商品ではデザインが大きな価値となります
つまり、テクノロジーの真価が緩やかな世界ではデザインが競争力を生むと言えます。
価格や量が競争力の中心となったコモディティ化した世界ではもはや日本に競争力はありません。
そんな中で「デザインは残された大きな強み」となります。
例えばイタリア。価格や技術力では大きな競争力はないにもかかわらず、デザインの力でもって、魅力的なモノづくりを得意としています。

感性への注目

◯経済活動のキーワードが感性・デザインとなる
◯デザインはなにをデザインしているのか?
以前は「本能レベル」と呼ばれる色や形がデザインの大部分を占めていたが、ドナルド・ノーマンが「ユーザビリティ」を提唱し、 「行動レベル」の「使いやすさ」 や「わかりやすさが」大きな位置を占めるようになった。
近年は「内省レベル」という概念が提唱される。例えば、1年の大半を整備工場に預けなければならないような外車を愛してしまうといった、美しさや使いやすさ以外に、どうしても欲してしまうものがある事も考えられるようになる。
アレッシーの茶こしは、4000円以上の価格で売られているが、決して使い勝手がいいとは言えない。しかしよく売れる。これは機能や使いやすさではなく、これにより会話が生まれ、「茶こしを使う意味」や「これがある生活の意味」をデザインしていると言える。

H32.近年のデザイン研究から

「デザイン理論」の常識を疑え

◯メラビアンの法則
人は見た目が9割というが、この実験、実は落とし穴があるんです。
この実験の詳細は、笑顔で怒りの言葉を投げかけたり、悲しい顔で喜びのことばを投げかけられたら、人はビジュアルと音声のどちらを優先して処理するか?というもの。
答えは 見た目の情報がよく使用される。つまり、視覚情報と音声情報のどちらも有効な場合はこの結果はあてはまらない

ミラーのマジカルナンバー 7±2
「情報処理の限界は2bit(4)から3bit(8)」。よって人間が記憶できるのは7±2程度というもの。
近年ではコウアンの提唱する「注意や情報処理の限界は4±1程度」という研究結果も有力
アップルのホームページが見やすくて、自治体のホームページが見にくいと感じるのは情報過多によるもの。

注目されるデザイン理論

◯流暢性仮説
われわれは、認知処理がスムーズ(流暢)な方をより好ましいと評価する。
この説は長い間「具体性」が示されてこず、解明されてこなかったが、、、

◯近年流暢性の要因がカテゴライズされ具体性が示されてきた(Reberら, 2004)
・典型性
・対称性
・情報量の少なさ(単純性)
・コントラスト(明瞭性)


◯ 美的好感情の流暢性モデル(Graf & Landwehr, 2015)
「単純・シンプル」が理解しやすく好まれやすい一方で、逆に「複雑」なものも好まれる場合がある
例えば、音楽では、とてもシンプルなポップスがヒットする一方で、Jazzなどの複雑な曲も好まれる。
この場合、複雑なものを好むプロセスには、前提として「接触経験の量」があり、そのうえで「認知的な処理」がなされ、「刺激的好感情」のプロセスがなされるというもの。


かみ砕いて言うと、音楽を聴きまくってる人は、音楽に対する処理能力が上がっているので、Jazzのような複雑な音楽も認知でき好む。また、子供の頃は嫌いだった味が大人になって好きになるという事もこの理論で処理できるのではないかと思います。受け手の習熟度に合わせた表現が望ましいといえるのではないでしょうか。

◯プロジェクション・サイエンス(鈴木宏昭, 2016)
→古典的には「投射」とよばれる
「われわれが対象から受ける情報と、対象に与える(投射する)意味」

ついたてで実際の手を隠し、ラバーハンドを観察しているときに、リアルハンドとラバーハンドを同時に撫でたり触ったりすると、触られているという感覚をラバーハンドのある位置に感じる(触覚の位置の錯覚)。
事故などで腕や足を切断した人がないはずの腕や足に痛みを感じる「幻肢痛(げんしつう)」というものがあるそうです。
人は感じながら、そこに世界を投影している。つまり私たちはそこにある世界を「受け取っている」というより、「作っている」といえる。

◯「何を感じた」ではなく「どのように理解しようとした」か。
マンガ「ヘタリア」に代表される「擬人化もの」というジャンルを例にして考えます。
国家を擬人化したマンガ「ヘタリア」では主人公のイタリアはちょっぴりドジだけど感性が豊かであり、オーストリアのキャラクターは厳格な性格であるなど、国に個性を持たせている。国に性格などないはずなのに、なぜか様々な国のキャラクターの個性に納得してしまいます

これは機能的投射と呼ばれ、我々が一番よく知っているのは「人間」ですから、人間に当てはめると理解が深まるという特性があります。
逆に考えると、何でも自分たちのわかりやすい知識になぞらえて理解をする癖があると言えます。
目の前のものから「何を感じているか」というより「何の知識をそこに投影・意味づけしているか」という事なんです。
このことから、デザインは「送り手が意味を与えるプロセス」から「ユーザーが意味を生成するプロセス」に変化しているといえます

◯生成的な認識
対象の認知も、対象のもつ情報に対して生成的なプロセスをとる

(ex)ヒトらしさの認知

人間に似せるために莫大な金額を投資しているアンドロイドよりも人間とは似ても似つかぬ形をしたロボット掃除機に強い人間性を感じる。
対象物がどういうものを(この場合は人間らしさ)こちらに投げかけてくるかより、我々が何(この場合は人間らしさ)を対象物に当てはめようとしているかが重要であるといえるでしょう。
このことから、設計者ファーストの考え方ではなく、ユーザーファーストの考え方にならざるを得ないといえるでしょう。

「ビジュアル以外」のデザイン

◯ケース1 触覚のデザイン

    1. Peck & Shu(2009)によればおもちゃやマグにさわると、見ていただけのときより価格を20%増しで見積もる。
    2. Krishna & Morrin(2008)によればもろいカップで水を飲むと、しっかりしたカップで飲んだ人より水のクオリティを低く評価する。
    3. Ackermanら(2010)によると選挙の候補者の人物評価や、社会的政策の評価などについて、重たいクリップボードをもたせて判断させると、候補者はより真剣な人物、政策は「重い内容」により積極的に回答する。

「意識」以上に、われわれは多くの情報を処理しているのです。

◯ケース2 聴覚のデザイン
(ex.)ブーバ・キキ効果
右の図形、どっちが「ブーバ」で、どっちが「キキ」でしょう?
98%の人が左がキキ、右がブーバと答えます。

 

 

◯ケース3 意味のデザイン
(ex.)コーヒーのUX(ユーザー・エクスペリエンス)

○コーヒー豆の価格:25セント程度
缶コーヒーからホテルのラウンジまであまり変わらないのに販売されている価格に大きな開きがあります。

  • 缶コーヒー(130円)
  • スタバ(400円)
  • ホテルのラウンジ(1000~1200円)

○提供されているのは、「サービス」の違いなのか?
・風景などの環境
・希少性の高い「経験」
・ユーザーが生成する「意味」
「こんないい所でコーヒーが飲めた!」というように ユーザーがその価値をつけている。
「UX (ユーザー・エクスペリエンス) 」と「サービスデザイン」は似ているようでちょっと違う!
UXにおけるポイントは 「いい経験」と感じてもらう仕掛けを作り、長く経験を深めてもらうようなものを作る事。
マーケティングの世界では「どういうものを提供するか」という事を考えすぎていて「ユーザーがどういう世界をつくるか」という点をあまり考えていない。もう少しユーザーの持つ力を信頼してもいいのではないか。

3.その他デザインの話題

デザイン評価とデザイン支援システム

○デザイン行為インデックス(荷方・猪股ら, 2017)
先のデザインの価値を実現する「方法(デザイン行為)」について、80人のデザイナーのノウハウを調査。
→デザイン支援ツールで実現すべく開発中
以下は例えば「高級感があるデザイン」を求められた場合の具体的な手法を導き出す例。

未来を占う

「標準化」から「最適化」へ

これまではマス的な考え方に基づき、「みんながいいと思うもの」を作っていた。近い将来3Dプリンタが一般家庭に普及すると、100均ショップで買えるものの1/3は家庭で無料で作れるように。
GitHubから設計図をダウンロードしてくるため、デザインを企業が持たなくてもいい時代になる。

◯標準化
・IoTによるモノづくりの普及は,ファブリケータや感性ツールなどの標準化が必須
・標準化の実現は,世界を一つの地平におくことができる。ファブ地球社会への布石
・世界標準の獲得は,わが国にとっての最大の強みとなる。

標準化が進むと、自分たちの思い通りにできることが重要になってくるので 「最適化」が重要に。

◯最適化
・ハンディを持つ人から,「とんがりすぎた人」まで,すべてが適応的に生きられる社会の実現
・多品種少量生産の形式を必然的にとる,結果として,デザインなどの「最適化」はユーザ自身が行うことになる。
・したがって企業は材料やデバイスなど,「重化学工業」に回帰。
・ユーザーが関与することによる安心や安全は、社会制度として整備する必要がある

「拡張された」意識と行為

ユビキタスという言葉を使っていた時代はまだユビキタスではなかった。現在、それが当たり前になったのでユビキタスという言葉は使われなくなった。これが意識が変わるという事。

◯ヒトの意識を拡張する技術
・QOLの向上による,ヒトの可能性の拡張
・拡張物質感がもたらす認識の拡張
・感性と思考を映し出すことによって,人の認識の空間を拡張
・ゲル素材をつかった食の可能性の拡張

◯ヒトの能力を拡張する技術
・VRがもたらす拡張世界
・ものづくりで,看護・介護が変わり生きることの力がさらに拡張する
・デジタルマテリアルがもたらす世界の拡張

◯ヒトの世界を拡張する基盤
・オープンソースによる利用と活用の拡張
・共創によるネットワークの拡張
・知財管理による安心の拡張

3Dプリンタで作られた義足やギプスは「かっこ悪いもの」ではなくなっている。
けがや病気にまつわるイメージが「かっこいいもの」に変わってしまいかねない。
「デザイン」とは「意味を変える」ということかもしれない

■レポート:株式会社フィックス黒田 朋宏
最後までお読みいただきありがとうございました。株式会社フィックスの映像事例集も随時更新中ですので是非ご覧ください!


※荷方先生のご厚意により、フルバージョンの講義を動画にてご覧いただけます。
講義に使われたスライドはこちらからダウンロードいただけます。

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